窯跡と発掘調査(2)

 前回は、考古学的な発掘調査をする上で、窯跡という遺跡はどんな存在なのかということについてお話ししました。では、この考古学的な手法による窯跡の発掘調査とはどのように行うのでしょうか?本日は、そのあたりについて簡単に記してみたいと思います。

 前回、これまでにみずから40か所近い有田の窯跡を調査してきたと言いましたが、一つの窯跡を何度か調査することもありますので、実際には調査数自体は40回を軽く超えます。また、窯体自体は発見できなかった窯跡もいくつもありますが、逆に、一つの窯跡には複数の窯体が埋まっていることも珍しくないので、調査した窯体数という意味では50基を超えています。こうして数をこなせば、発掘調査の際に、それだけ直感が働く場面が多くなります。

 登り窯跡の発掘の際に、主に調査対象となるのは、窯の本体と失敗品を捨てた物原です。調査方法としては、あらかじめ調査区内全体をマス目状に区切っておくグリッド法と、任意の場所を選んで掘削するトレンチ法に分けられます。おおむね大規模な調査の場合はグリッド法、小規模な調査や本調査に先立つ事前調査の場合などはトレンチ法を用います。
 調査方法に関わらず、通常は、まず窯体の位置を特定し、それを元に掘削の方向を定めます。これは、特に決まりというわけではないのですが、経験上、窯体に可能な限り垂直や水平方向に掘削溝を設けた方が、土層の堆積などにおいて、より良い情報が得られるからです。そのため、特にグリッド法を用いる場合などは、グリッドを組む際、つまり発掘する以前から窯体の方向を捉えておく必要があります。これは、事前調査などで確認することもありますが、慣れてくると、地形や遺物の散布状況などから、地面の下に埋もれている窯体の位置や方向が掘らなくても分かる場合も珍しくありません。
 実際の掘削では、物原と比べると窯体は、経験を積めば難しいものではありません。熔融した硬い壁を見つけられれば、それを手がかりに周辺に掘り広げて行けばいいからです。もちろん、焼成室の壁や床の修復など、複雑な遺存状況の場合などもあるため、簡単というわけではありませんが。とりあえず窯体は、慣れた作業員さんだと、そのうち一人でも掘れるようになります。

 一方、物原は、いくら慣れた作業員さんでも、掘り進めることはできません。いや、もちろん土自体は掘れるのですが、自分で土層の違いを確認しながら、掘ることが難しいのです。土層堆積の原理自体は簡単です。毎回、焼成の際に失敗した製品や土砂は、窯体の片側に隣接する谷に投棄され堆積します。たとえば、積み木を積んでいるようなもんで、下の積み木ほど積んだ時間が早く上ほど新しくなります。つまり、下の土層が古く、上に堆積するほど新しいという至極簡単なことです。単純に言えば、原理はこれだけなのです。
 ところが、原理は分かっても、実際に土を層ごとに区分することは、そうたやすくはありません。しかも、通常、斜面に堆積している土層なので、水平ではなく、斜めに堆積しています。さらに、人為的に捨てた遺物や土砂が多いので、狭い範囲にしか堆積していません。1m離れると、別の土層が堆積していることなど珍しくないのです。しかし、この層位的な調査を放棄してしまうと、窯跡の調査の醍醐味も意義も薄れます。各土層には、その土層が堆積した時点でのさまざまな遺物が含まれており、別な言い方をすれば、その時期の技術や流行などさまざまな情報が詰まっているからです。土層ごとに含まれる情報を順に並べれば、歴史的な変遷が明らかになるのです。

 ところで、窯跡に堆積している土層には、大別すれば自然堆積層と人為的な堆積層があります。自然堆積層は、その名のとおり自然に堆積した層で、普段あたりを見渡すとだいたい地表面に黒っぽい層が堆積していますが、それが自然堆積層です。たとえば、災害などで短期間に堆積する場合もなくはありませんが、通常は、長い期間をかけて徐々に堆積します。遺跡全体に広い範囲で堆積しているのが特徴ですが、窯跡の場合は自然堆積層は例外的です。もちろん、窯跡でも地表面の土は自然堆積層が一般的ですが、ほかには物原の最下層にもよく見られます。これは、窯跡が構築された当時の数百年前の表土層で、これが発見されると、最下層まで到達したことが分かります。また、まれに物原の土層の途中に自然堆積層が現れることがあります。これは、窯の操業の途中に休止期があった場合などで、うまく文献史料などにその記録が残っていれば、土層の実年代が明確になります。

 一方、窯跡で一般的な人為的な堆積層は、色調の違いから、白、黒、赤、黄あたりに大別できます。もちろん、実際にはもっと複雑ですが、たとえば窯の中の砂を掻き出せば、白い砂が貯まります。また、同じく炭の場合は黒、窯体が壊れた場合や補修した場合は赤、もっと大規模な補修の場合は地山を削るため、その土色である黄色の土層が堆積するのです。このように、堆積している土層によって、ある程度窯の操業中の時々で何が起こったか推測することもできるのです。とはいえ、同じ色調でも砂質や粘土質の違いがあり、遺物が多く含まれている場合やほとんど含まない場合、複数の色調の土が混じる場合など、細かく分けると同じ層は二つとありません。そのそれぞれで、成り立ちが異なるのです。

 このように、考古学的な発掘調査と言っても、原理的には特別に難しいことをするわけではありません。ならば、手順さえマニュアル化できれば誰でもできそうなもんですが、こういう原理自体は簡単なものほど、調査する人の力量によって、引き出せる情報量が大きく違ってくるのです。たとえば、同じような色調の土が重なっている場合、単純に土層を見ただけでは分けられない場合も珍しくありません。しかし、そこに含まれる遺物の違いを識別できる力があれば、土層の境目も見つけることができるのです。いかに客観的で正確な情報をより多く引き出せるか、これが窯跡に限らず、本来発掘調査に求められるものなのです。(村)

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